代理権濫用
Aは、妻とともに、子B(当時17歳)の法定代理人として、Cに対し、Bが祖父からの贈与により取得した甲土地を、時価の500万円で売却して引渡、所有権移転の登記をした。Aは、妻の了解の下に、その売却代金を、AのDに対する500万円の債務の弁済に充てた。Aは、Dに弁済する際、甲土地の売却代金により弁済することを秘していたが、Dは、そのことを知っていた。AがDに弁済した時、A夫婦は無資力であった。その後、Bは、成人した。
A夫婦が売却代金をAのDに対する債務の弁済に充てるために甲土地を売却したものであり、Cは、甲土地を買い受ける際、そのことを知っていた場合において、次の各問について論ぜよ。
(1) Bは、Cに対し、甲土地の返還を請求することができるか。
(2) CがBに対して甲土地を返還したとき、CはBに対し、500万円の支払を請求することができるか。
(旧司法試験平成14年第1問 改題)
BがCに対して、甲土地の明渡請求および所有権移転登記抹消手続請求をするためには、どのような要件が必要か。また、そのうち何が本件で問題となっているのか。両方説明しなさい。
Cは「A夫婦がBの代理人として契約したのだから、その効果はBに帰属する」と主張できるが、この主張が認められるためには、どのような代理関係の要件が必要ですか説明しなさい。また本件で形式的にその要件は満たされているかを説明しなさい。
A夫婦がB名義の甲土地を売却した行為が、Aの借金返済のためであった場合、この行為は「利益相反行為」といえるか説明しなさい。
A夫婦の行為が、形式的には法定代理の範囲内にあるように見えても、それが実質的にBの利益と無関係で、自己の借金返済のためだけの行為であった場合、民法107条の適用により無権代理とみなされることがあるか説明しなさい。
親権者が子のために法律行為を行った場合でも、その内容や動機によっては、代理権の濫用が問題となることがある。この点について、代理人が代理権の範囲内で行為をしたかどうかを判断するための基準が問題となるが、それは民法109条但書のどの要件に関する規範定立であるかを説明しなさい。
代理権の濫用によりA夫婦の行為が民法107条の適用を受ける場合でも、相手方Cが保護されることはあるか。107条の文言および趣旨に照らして説明しなさい。
無権代理の場合、本人・無権代理人・相手方の三者の関係がどのように構成されるかを理解することは重要である。この点について、それぞれの間に契約関係や法的責任が生じるかどうかを、代理の基本構造に即して説明しなさい。
結果として、A夫婦の行為が無権代理であるため、Bが依然として甲土地の所有権を保持していると評価されるとき、Bはどのような請求をCに対して行うことができるか、説明しなさい。
Cは、無効な売買契約に基づいて500万円を支払ったにもかかわらず、土地をBに返還したとして、不当利得返還請求を主張することが考えられる。この請求が成立するためには、どのような要件を満たす必要があるか説明しなさい。
Cが支払った500万円の代金がすべてAの借金返済に使われ、Bには一切渡っていなかった場合、Bに不当利得が認められるか説明しなさい。