表見代理
18歳のAは,唯一の親権者で画家である父Bに対し,真実はバイクを買うためのお金が欲しかったのに,知人からの借金を返済するためにお金が必要であるとうそをついて,金策の相談をした。この事案について,以下の問いに答えよ。
Bは,Aに対し,Aの借金を返済する金銭を得るために,Bが描いた甲絵画を,これまで何度か絵画を買ってもらったことのある旧知の画商Cに売却することを認め,売却についての委任状を作成し,Aに交付した。しかし,その翌日,Bは,気が変わり,Aに対して,「甲絵画を売るのはやめた。委任状は破棄しておくように。」と言った。ところが,その後,Aは,Bに無断で,委任状を提示して,甲絵画をCに50万円で売却した。この場合,Bは,Cから,甲絵画を取り戻す ことができるか。
(旧司法試験平成21年第1問 改題)
BがCに対して甲絵画の返還を求めるためには、どのような要件を満たす必要があるか説明しなさい。
また、本件でその要件のうちとくに何が問題となっているか説明しなさい。
未成年者AがBの代理人として売買契約を締結した場合、それが有効な代理行為と評価されるためには、どのような要件が必要か説明しなさい。また、本件でその要件は形式的に満たされているといえるか説明しなさい。
BがAに対して委任契約を解除していた場合、Aの代理行為はどのような評価になるか説明しなさい。
また、Cとの関係ではどのような主張が問題となるか説明しなさい。
委任契約が解除された場合に代理権が消滅するとされるのは、委任契約と代理権授与契約との関係に基づくものである。この点について、なぜ代理権が消滅すると考えられるのか、どの時点から消滅するのか、解除後の代理行為の法的効果がどうなるのかを説明しなさい。
委任契約が解除された後に代理人が契約をした場合において、相手方がその代理権の消滅を知らなかったときには、表見代理の成否が問題となる。このとき、なぜ民法109錠ではなく112条を適用すべきなのかを、代理権の消滅の性質に照らして説明しなさい。
詐欺によって締結された契約を取り消した場合、代理権も消滅するが、このとき委任契約を取り消した場合と代理権授与契約を取り消した場合とで、代理権の消滅に違いがあるかが問題となる。この点について、両契約の関係性と詐欺取消しの効果に着目して説明しなさい。
代理権授与契約が詐欺によって締結され、後に取り消された場合、表見代理の成否が問題となる。このとき、109条を適用する理由を、詐欺取消しの法的効果に基づいて説明しなさい。
民法109条に基づく表見代理が成立するためには、本人がどのような「表示」をしたことが必要か説明しなさい。
本件で、Bが委任契約を解除していた場合や、詐欺によって代理権を取り消した場合であっても、Cが善意無過失である場合には、Bは甲絵画を取り戻すことができるか。問題の論点とともに最終的な結論を整理しなさい。
【応用問題①】Bは、代理人Aに対して「甲絵画を展示会に貸し出す目的で代理権を与える」として委任状を交付したが、Aはこれを使ってCに売却してしまった。その後、BはAから騙されていたことに気づき、「代理権授与の意思表示は詐欺に基づくものである」として代理権授与を取り消した。 このような場合、無名契約説に基づく代理権授与の取消しの効果と、Cとの売買契約の効力についてどのように評価されるか。Cが保護される余地はあるかに着目して説明しなさい。
【応用問題②】Cは、Bから甲動産を買い受けて引渡しを受けた。しかし、Bは甲動産の所有者Aの無権代理人であり、Aから代理権を与えられていなかった。 このと き、Cが「自分は善意かつ無過失で引渡しを受けたのだから、即時取得により甲動産の所有権を取得した」と主張することはできるか。 できないとすれば、なぜ即時取得は成立しないのか、条文の文言や制度の趣旨から説明しなさい。