目的物の特定1 持参債務
家具商を営む甲は、乙とタンス1さおを乙に売る契約を締結し、履行期に乙方に届けたところ、乙から受けとることを拒まれた。そこで、甲は、運送業者丙に運送賃を支払ってその運送を依頼し、これを持ち帰って甲の店舗に保管していたところ、地震により右店舗が倒壊したため、右タンスがき滅した。乙が受領を拒んだ理由が、
(1)置場所が片付いていないことにある場合
(2)右タンスに瑕疵あることにある場合
とに分けて、甲・乙間の法律関係を説明せよ。(旧司法試験昭和52年民法第1問)
本件契約は「タンス1さお」という記載にとどまっています。このような不特定物の売買において、本件タンスが契約上の「目的物」にあたると評価されるためには、どのような法的要件を満たす必要がありますか。
対応する模範解答の部分
「そのような場合に、たんすが契約の具体的な目的物と評価されるためには、民法401条2項の『特定』が生じている必要がある。」
民法567条2項が適用されて、乙の再引渡請求が認められなくなるためには、どのような要件をすべて満たす必要がありますか。条文の文言にも注意して答えてください。
対応する模範解答の部分
「以下の要件をすべて満たす必要がある。①〜⑤」
目的物が地震により滅失した場合において、567条2項が適用されるときでも、乙は契約解除や損害賠償請求をすることができるでしょうか。理由を含めて答えてください。
対応する模範解答の部分
「567条2項により、甲に帰責性がないとされ、債務不履行責任を免れるため、これらの請求も認められない。」
乙がタンスの受領を拒否した後、地震によりタンスが滅失した場合、甲は乙に対して代金の支払を請求できるでしょうか。その法的根拠とともに考えてください。
対応する模範解答の部分
「567条2項においては、買主の受領拒否によって引渡不能が生じた場合、売主は引渡責任を免れると同時に、代金の支払を請求できるとされる。」
甲は乙に対して本件タンスを引き渡しましたが、契約に適合しないものでした。このような場合でも、民法401条2項に基づく「特定」が成立するといえるでしょうか。理由を含めて答えてください。
対応する模範解答の部分
「契約不適合物の提供は、『債務の本旨に従った履行』ではないため、弁済の提供(493条)とはならない。これにより…特定も生じていない。」
甲が引き渡したタンスが契約不適合物であり、その後滅失した場合、甲の引渡債務(別のタンスを用意する義務)は消滅するでしょうか。履行不能かどうかを含めて検討してください。
対応する模範解答の部分
「したがって、本件タンスが滅失しても、それは甲の履行債務の履行不能とはならず、甲はいまだ代替物の引渡義務を負っている。」
甲が引き渡したタンスが契約内容に適合しないものである場合、乙は契約を解除することができるでしょうか。その法的根拠を示してください。
対応する模範解答の部分
「乙は、甲に対して引渡債務の履行を催告した上で、契約の解除(541条本文)をすることができる。」
甲が契約に適合しないタンスを引き渡し、乙が契約を解除した場合、乙は甲に対して損害賠償請求をすることができるでしょうか。また、解除後に請求することに何か意味がありますか。
対応する模範解答の部分
「解除権が発生している場合には、履行に代わる損害賠償請求(同条2項3号後段)も可能である。」