代理権濫用、不法原因給付
他人物贈与
他人物贈与とは、「他人の物を無償で贈与する契約」のことです。
① 契約としての有効性
- 贈与契約そのものは有効(当事者間に意思表示があればOK)
- ただし、贈与者に所有権がなければ所有権は移転しない
📘民法176条:物権の移転には「当事者の意思表示」が必要
※ただし、贈与者が所有者であることが前提
② 所有権の移転はいつ?
- 贈与時点で贈与者が所有権を持っていない → 所有権は移転しない
- 後から贈与者が所有権を取得した場合 → その時点で所有権移転の効果が生じる
③ 他人物売買との違い
- 売買(有償契約)では、売主に取得義務が課される(561条)
- 贈与(無償契約)には561条の準用はなく、贈与者に取得義務はない
✅ 結論まとめ
論点 | 内容 |
---|---|
他人物贈与 | 契約は有効だが、所有権は原則移転しない |
所有権取得後 | 後で贈与者が取得すれば移転可能 |
売買との違い | 売買は取得義務あり、贈与はなし |
利益相反
Ⅰ.利益相反行為とは
1.定義と基本構造
利益相反行為とは、親権者と子の間で利害が衝突する法律行為のことをいいます。親が自らの利益のために子の財産を動かすような行為が典型です。
【条文】民法826条1項
親権を行う者とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子に代わってその行為をすることができない。
Ⅱ.利益相反行為の判断基準
1.行為の「外形」から判断
最判昭和48年4月24日は、親権者の動機や意図ではなく、行為の外形から客観的に判断すべきとしています。
📌 よって、「親は子のためにと思ってやった」などの主観的な意図は判断材料にはなりません。
代理権の濫用
Ⅰ.親権者と代理権の関係
親権者は、未成年の子どもの法定代理人であり、子の法律行為について包括的な代理権を持ちます(民法824条)。
たとえば、子の財産を管理したり、不動産の売却・担保設定などを親が代理して行うことができます。
Ⅱ.代理権の濫用とは(民法107条)
民法107条は、「代理権の範囲内」であっても、それが本人(この場合は子)の利益を無視し、代理人自身または第三者の利益を図る目的で行われた場合には、相手方がそれを知っていたか、知り得たときには無権代理とみなすと定めています。
📘【条文抜粋】
第107条(代理権の濫用)
代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。
Ⅲ.親権者による代理権濫用とその判断基準(判例:最判平成4年12月10日)
🔍 判例の事案と結論
- 親権者が、子の不動産に第三者の債務の担保として抵当権を設定した。
- 子に利益があるとは言えず、親権者自身や他人の利益だけが図られていた。
- しかし、このような行為は直ちに「代理権の濫用」には当たらないと判断された。
✅ 判例が示す判断基準
判断要素 | 内容 |
① 代理行為の目的 | 子の利益を無視し、自己または第三者の利益を図ること“のみ”を目的としているかどうかが重要 |
② 権限の範囲 | 親権者は利益相反でない限り、広範な裁量権を持つ(民法824条) |
③ 利益相反でない行為 | 一見して形式的に子の不利益に見えても、利益相反に当たらない限り、直ちに無効にはならない |
④ 特段の事情 | 「親権者に法定代理権を与えた法の趣旨に著しく反する」特段の事情が必要 |
➡ 結論として、「特段の事情」がない限り、代理権濫用は成立しにくい。
代理権濫用と利益相反行為の関係
- 外形的には利益相反に該当しない行為(例:第三者の債務の担保)は、原則として親の裁量の範囲内。
- ただし、親が自己や第三者の利益だけを目的に行い、相手方もそれを知っていた(または知り得た)場合には、代理権の濫用(民法107条・93条但書類推)として無権代理になる(最判平4.12.10)
不法原因給付
不法原因給付とは、「公序良俗に反する目的」で行われた給付のことで、原則として給付者は返還請求できません。これは、反社会的行為に加担した者を法的に保護しないためです。もっとも、受益者の不法性が特に強い場合などには、例外的に返還請求が認められることもあります。
Ⅰ.基本概念の整理
◆ 不法原因給付とは?
不法原因給付(民法708条)とは、不法な原因(公序良俗違反)に基づいてなされた給付であり、その場合、給付した者は原則として返還請求ができないとされる制度です。
例:
- Aが殺人を依頼し、報酬としてBに100万円を渡した。
- 既婚者であるCが、愛人契約の代償として不動産をDに譲渡した。
これらは社会的に許されない行為を前提としてなされているため、給付者が後から「返してほしい」と言っても、その請求は認められません。
趣旨:クリーンハンズ原則
- 「自ら不法な行為に関与した者は、その不法行為の効果を司法によって覆す請求が認められない」という一般法原則(民法1条2項の信義則にも通じる)。
- 「法律は悪事の手助けはしないよ」程度の意味です。
- 日本の民法では特に708条(不法原因給付)でこの原則が具体化されています。
Ⅱ.関連条文(民法)
(不法原因給付)
第708条
不法な原因のために給付をした者は、その給付した物の返還を請求することができない。
Ⅲ.成立要件
不法原因給付が成立するには、以下の2つの要件を満たす必要があります。
① 給付の原因が不法(=公序良俗に反する)であること
→ 民法90条に違反するような目的(例:愛人契約、犯罪報酬など)
② 給付が実際に存在していること
→ 相手方に終局的な利益が移転している必要があります。
Ⅳ.「給付」の意味と判断基準
「給付」とは、相手方に終局的利益を移転させる行為をいいます。
対象物 | 給付が成立する基準 |
未登記不動産 | 引渡しのみで給付成立(最判昭45.10.21) |
Ⅴ.不法原因給付の効果
◆ 原則:返還請求できない
不法原因に基づく給付をした者は、その物の不当利得返還請求や所有権に基づく返還請求をすることができません(最判昭45.10.21)。
→ この制限は、反社会的行為に加担した者を保護することで、法の信頼性が損なわれるのを防ぐためです。
単に不当利得返還請求ができないだけでなく、所有権に基づく返還請求までできなくなってしまうことに気をつけましょう。
要するに、どんな手段を使おうと返還請求できないということです。