消滅時効
消滅時効
消滅時効の意義
消滅時効とは、ある権利(とくに債権)が一定期間行使されないまま経過した場合に、その権利を消滅させる制度です。
長期間にわたって権利を放置した者よりも、その事実状態に信頼して生活している相手方の利益を保護することを目的とします。
成立要件
現行民法(166条1項)に基づき、消滅時効が完成するためには以下の3要件を満たす必要があります。
要件1:権利を行使できる状態にあること(起算点の確定)
消滅時効の起算点は、次のいずれかです。
- ①【主観的起算点】権利者が「権利を行使できることを知った時」
- ②【客観的起算点】権利者が「権利を行使できる時」
※いずれか早く到来した方から起算(民法166条1項)
要件2:定められた期間が経過したこと
権利の種類 | 時効期間 |
債権(一般) | 知った時から5年 or 行使可能時から10年(166条) |
要件3:時効の完成猶予・更新がないこと
完成前に、一定の法的手続きや債務承認があると、時効は「猶予」または「更新(旧:中断)」されます(民法147条以下)。
時効の援用
意義
時効が完成していても、裁判所は自動的に権利の消滅を認めません。
→ 債務者などの利益を受ける立場の者が、「時効の援用」をしなければならないとされています(民法145条)。
援用権者(誰が時効を使えるか)
以下のように、消滅時効によって利益を受ける立場にある者が援用できます。
援用できる立場 | 根拠・補足 |
主たる債務者 | 債務の主体(当然援用可) |
保証人 | 主債務とは別に保証債務について援用可能(最判昭29.6.18) |
物上保証人 | 抵当権などを提供した第三者(最判昭48.11.8) |
第三取得者 | 抵当不動産を取得した者(最判昭39.9.29) |
譲渡担保の目的物取得者 | 担保物を譲り受けた者(最判平11.2.26) |
※「後順位抵当権者」は援用できないとする判例あり(最判平11.10.21)
援用の効果
相対効(援用者に限り効果が及ぶ)
たとえば、保証人が時効を援用して債務を免れても、主たる債務者には影響しません。
債務の承認による援用権の喪失(信義則)
時効が完成した後に債務者が債務を承認した場合、
たとえ時効完成を知らなかったとしても、援用することができなくなる(最判昭41.4.20)。
完成時の効力と「遡及効」
遡及効の原則
時効が完成した場合、その効果は起算日にさかのぼって発生します。
これは、永続した事実状態を尊重し、途中の権利関係の複雑化を防ぐためです。
「時効の完成の効力は、その起算日に遡る」(最判昭35.7.27)
👉 つまり、「実際に時効援用があった日」ではなく、すでに起算日までさかのぼって権利が消滅していたとみなされることになります。
まとめ:消滅時効の核心ポイント
- 消滅時効は、「権利を行使できるとき」から一定期間が経過することで完成する。
- 時効の援用がなければ、時効は効力を発揮しない(145条)。
- 援用は、主たる債務者・保証人・物上保証人など、時効完成の利益を受ける者に限られる。
- 時効完成の効果は「遡及」する(最判昭35.7.27)。
- 完成後に債務を承認すると、援用権を失う場合がある(信義則)。
抵当権
抵当権とは?
抵当権とは、不動産を担保として設定される物権であり、債務者が弁済しない場合に、その不動産を競売して得られた代金から、他の債権者に先立って弁済を受けることができる権利です。
たとえば、銀行から借金し、自分の家を担保とする抵当権を設定すれば、銀行からの借金を返せない場合、自分の家が売却されてしまいます。
関連する基本概念
用語 | 意味 |
被担保債権 | 抵当権によって担保される債権(例:金銭貸付債権) |
付従性 | 抵当権は被担保債権が消滅すると同時に消滅する性質 |
物上保証人 | 他人の債務を、自分の財産で担保する人 |
順位 | 複数の抵当権がある場合、設定順に弁済を受ける順序 |
被担保債権と付従性
・被担保債権とは?
担保の対象となる債権のこと。通常は貸金債権など。
・付従性とは?
抵当権は被担保債権に従属し、債権が消滅すれば抵当権も消滅します。
▷ 具体例
AさんがBさんに1000万円を貸す際、Bさんの土地に抵当権を設定。
→ この場合、「貸金債権」が被担保債権。
→ Bさんが返済すれば、抵当権も自動的に消滅。
抵当権の順位
複数の抵当権が設定された場合、登記の先後により優先順位が決まります。
用語 | 意味 |
先順位抵当権者 | 優先弁済を受けられる上位の抵当権者 |
後順位抵当権者 | 先順位の弁済後に残った範囲で弁済を受ける権利者 |
債権者代位
債権者代位権とは、債権者が自己の債権を保全するために、債務者に代わって債務者の権利を行使できる制度です。無資力・権利未行使・適格な債権など一定の要件があり、行使後の効果や制限も重要です。
Ⅰ.債権者代位権とは?
■ 意義
債権者代位権(民法423条)は、債務者が自分の権利を放置しているせいで、債権者の債権が回収できなくなるのを防ぐために、債権者が「代わりに」その権利を使えるようにする制度です。
■ イメージ図
A(債権者)───100万円貸付──→ B(債務者)───50万円貸付──→ C(第三債務者)
↑AがBに返してもらえないため、Bに代わってCに請求する(代位行使)
Ⅱ.民法の条文(抜粋)
(債権者代位権)民法423条
債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を代位して行使することができる。ただし、その権利の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
Ⅲ.債権者代位権の要件
債権者代位権を行使するには、以下の5つの要件をすべて満たす必要があります。
① 債権者の債権を保全する必要があること(=債務者の無資力)
債権者代位権は、債務者に資力(支払能力)がないことで、債権者の債権が回収不能になるのを防ぐための制度です。
そのため、債務者が無資力、つまり「他の方法では弁済を受けられない」状態であることが必要です。
② 被保全債権の履行期が到来していること
債権者の債権が、まだ支払い期限(履行期)に達していない段階では、債権者代位権は原則として行使できません。
③ 被代位権利が強制執行により実現可能なものであること
代位行使される権利(=被代位権利)は、最終的に金銭や物を取り立てられるものでなければなりません。言い換えれば、実現可能性があることが必要です。
④ 債務者が自ら被代位権利を行使していないこと
債務者がすでにその権利を行使している場合(訴訟提起等)、債権者が同じ権利を再度行使することはできません。
⑤ 被代位権利が債務者の一身専属権や差押禁止債権でないこと
債務者が有している権利でも、身分法上の権利(例:婚姻取消権、離縁請求権)や差押禁止債権は代位行使できません。
✅ 要件まとめ図
要件番号 | 要件内容 | 解説 |
① | 債権者の債権が存在すること | 金銭債権が原則(将来の債権でもOKな場合あり) |
② | 債務者が無資力であること | 弁済能力がない(例外:保存行為や転用) |
③ | 債権が履行期にあること | 履行期未到来では原則NG(保存行為は例外) |
④ | 債務者が権利を行使していないこと | 債務者が既に行使済みなら不可 |
⑤ | 一身専属権等でないこと | 親権や扶養請求などは不可 |