抵当権の効力2
Ⅰ.所有権に基づく返還請求とは?
1.所有権の基本的な意味(民法206条)
(所有権の内容)
民法第206条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
🔍解説:
「所有権」とは、自分の物を自由に使い、利益を得て、処分できるという強い権利です。
たとえば、自分の土地について、
- 家を建ててもいい
- 駐車場にしてもいい
- 他人に売ってもいい
ということができます。
2.返還請求とは何か?
土地の上に、他人が勝手に建物などを建てている場合、土地の所有者は「土地を返してほしい」と主張できます。
これを**所有権に基づく返還請求(収去・明渡請求)**といいます。
3.成立の3要件
以下の条件が揃えば、返還請求が認められます。
① 請求者が土地の所有者であること
② 相手が土地を使って(占有して)いること
4.よくある反論:「賃借権があるから出ていかない!」
相手が「土地を借りていたんだ」と言ってくるケースがあります。
→ このような「借りている」という権利(賃借権)は、登記があるかどうかで第三者に対抗できるかが決まります(借地借家法10条)。
つまり、登記がなければ、新しい所有者に対してその権利を主張できないのです。
✅ まとめ図:返還請求の成立要件
要件 | 内容 | ポイント |
---|---|---|
所有権の存在 | 土地の正式な所有者であること | 登記済みなら明確 |
占有の事実 | 他人が土地を使っていること | 建物の所有でもOK(間接占有) |
権原の不存在 | 正当な利用権限がないこと(賃借など) | 登記がなければ対抗不可 |
抵当権
Ⅰ.抵当権とは
💡 定義(民法369条)
(抵当権)
第369条 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を継続している不動産について、その占有を妨げないで、これを担保にして、債権の弁済を受けることができる。
抵当権とは、債務の担保として不動産に設定される物権であり、債務不履行時には競売を通じて、他の債権者に先立って優先弁済を受ける権利です。
Ⅱ.関係者と用語の確認
用語 | 意味 |
抵当権者 | 担保権を持つ者(通常は債権者=金融機関など) |
抵当権設定者 | 不動産に抵当権を設定した者(通常は債務者) |
被担保債権 | 抵当権によって担保される債権(例:貸金債権) |
物上保証人 | 他人の債務を自分の不動産で担保する人 |
Ⅲ.抵当権の4つの基本的性質
① 付従性(ふじゅうせい)
抵当権は、被担保債権が消滅すれば当然に消滅します。
例:ローンを完済 → 抵当権も消滅
👉 ローン契約が無効であれば、抵当権も無効となります。
② 随伴性(ずいはんせい)
抵当権は被担保債権に随伴します。つまり、債権が譲渡されると、その担保である抵当権も一緒に移転します(債権譲渡に伴って抵当権もついていく)。
③ 不可分性(ふかぶんせい)
債務の一部が弁済されても、抵当権は目的物全体に残存します。
例:1000万円のうち500万円返済しても、抵当不動産全体に効力が残る。
④ 物上代位性(ぶつじょうだいいせい)
抵当不動産が滅失しても、それに代わる保険金・損害賠償請求権・売買代金などに抵当権の効力が及びます(民法372条)。
📜 民法372条(物上代位)
抵当権は、抵当不動産に代わる物(保険金等)にも効力を及ぼす。ただし、これらの物に対しては、差押えをしておくことが必要です。
Ⅳ.被担保債権との関係
被担保債権とは、抵当権によって担保される具体的な債権を指します。
- 金銭債権であることが多いが、特定物の引渡請求権などでも可。
- 将来発生する債権(条件付・期限付債権など)も可。
- 例:保証人が将来取得する可能性のある求償債権も被担保債権とすることができる(判例・通説)。
Ⅴ.抵当権の効力が及ぶ範囲
📘 民法370条
抵当権は、抵当不動産に「付加して一体となっている物」(付加一体物)にも効力を及ぼす。
主な及ぶ対象:
類型 | 内容 | 効力の有無 |
付合物 | 物理的・経済的一体性(庭石・石垣など) | ◯ |
従物(民法87条) | 主物の常用に供するもの(エアコン・畳など) | ◯ |
従たる権利 | 土地の借地権など、主物の利用価値を高める権利 | 類推適用で◯ |
🌳 具体例
- 建物の屋根に付けられたソーラーパネル → 建物の従物とされれば、抵当権の効力が及ぶ
- 建物を競落した人(買受人)が、抵当権とともに従物を取得する可能性あり