特定2 取立債務

Ⅰ.種類債権の目的物の特定(民法401条2項)

種類債権とは

種類債権とは、「ある種類の物を一定量引き渡すこと」を内容とする債権のことを指します。たとえば、「大豆10kgを引き渡す」という債権がこれに当たります。

特定の意義と必要性

種類債権は、そのままでは具体的にどの物を渡すのかが明らかでないため、どの物を渡すべきかを定める手続が「特定」です。特定されると、その後はその物が債権の対象(目的物)として固定されます。

民法401条2項

債務者が「物の給付をするのに必要な行為を完了した」時、または「債権者の同意を得て給付すべき物を指定した」時に特定が生じます。

  • 債務者の「必要な行為の完了」とは、取立債務の場合、目的物を分離して引渡準備を整え、それを債権者に通知することを指します(最判昭和30年10月18日など参照)。
  • 一方、持参債務の場合、引き渡しになります。
  • 条文には明記されていませんが、従来の解釈上、債務者・債権者の合意で特定することも可能とされていました。

Ⅱ.種類債権の特定の具体的方法

種類債権の特定方法は主に以下の方法があります。

特定は次の要件に分類できます。

  • 持参債務の場合
    債務者が目的物を債権者の住所に持参して引き渡しを提供する(493条参照)。
  • 取立債務の場合
    債務者が目的物を分離し、引渡準備を整えて債権者に通知すること。
  • 合意による場合
    当事者が合意で特定をすることも可能になります。

種類

特定の方法

持参債務

債務者が目的物を債権者の住所に持参して提供する

家具販売店が買主宅に家具を運ぶ場合

取立債務

債務者が目的物を分離し、引渡準備を整え債権者に通知する

買主が売主倉庫に取りに行く場合


Ⅲ.種類債権が特定された場合の効果

種類債権の特定が生じると、主に次の2つの法的効果があります。

(1) 保存義務の発生(民法400条)

債務者は特定された目的物について、善良な管理者としての注意義務(善管注意義務)を負います。

(2) 危険負担の移転(民法567条1項)

売買の場合、特定された目的物が引渡後に当事者の責めによらない理由で滅失・損傷したときは、その危険は買主が負担します(売主は責任を免れます)。


Ⅳ.買主の受領拒否後の目的物滅失の場合(民法567条2項)

買主が目的物の引渡しを拒否した後、目的物が双方に責任のない理由(地震等)で滅失した場合、売主は責任を免れ、買主の代金支払い義務は存続します。

✅ 民法567条2項の要件整理(再掲)

① 引き渡した物が契約目的物(特定済)
② 売主が契約適合の物を提供した
③ 買主が受領を拒否した
④ その後、引渡不能となった
⑤ 不能が双方に責任ない理由によるもの(不可抗力等)


Ⅴ.契約不適合(瑕疵)がある場合の特定と買主の救済手段

売主が契約に適合しない目的物を提供した場合、これは「債務の本旨に従った履行」とはならず、民法401条2項の特定が生じません。

特定がなければ、その目的物の滅失は履行不能にならず、売主には引渡義務(代替物の調達義務)が引き続き存在します。

✅ 買主の救済手段一覧(再掲)

  • 追完請求(代替物の引渡請求)(562条1項)
  • 代金減額請求(563条1項)
  • 契約解除(催告後解除:541条、無催告解除:542条)
  • 損害賠償請求(415条)

Ⅵ.図解(特定後の危険負担)

 【特定前】         

 種類債権(大豆10kg)     

   ↓            

 【特定の行為完了】     

 甲が米を乙宅に持参    

   ↓            

 【特定後】          

 特定物債権に変化      

   ↓            

 【滅失(地震)】      

 甲は責任を負わない(乙が代金負担) 


Ⅶ.危険負担の検討フローチャート

特定は完了しているか?

├ YES → 引渡し前の滅失か?

│     ├ YES → 売主負担(代金請求不可)

│     └ NO(引渡し後) → 買主負担(代金支払義務あり)

└ NO → 売主が別の物を調達して引渡義務を負う

Ⅷ.用語・概念チャート(特定と危険負担の関係)

状態

特定前

特定後

債務の種類

種類債務

特定物債務

滅失の場合

売主は別の物を引渡す義務あり

引渡後の滅失は買主負担(代金支払義務あり)