1　

(1)　Xの所有権移転登記請求

　Xとしては、売買契約によって正当に土地を取得した以上、その権利を実現し、登記名義を自分の名に移すことで、権利を確実に保護したいという動機がある。
　そこでXは、Aとの間で売買契約（民法555条）を結び、甲土地の所有権を取得したとして、現在その土地の登記名義を有するBに対して、所有権（民法206条）に基づいて、X名義への所有権移転登記手続を請求することが考えられる。

　要件は、

　① 請求者が所有権を持つこと
　② 相手方名義の登記が存在すること

の2点である。

　②については、問題文から明らかに満たされる。
　民法176条により、不動産の所有権は契約（＝意思表示）だけで移転するとされているため、①XはすでにAから所有権を取得したといえる。
　よって、上記請求は可能である。

　これに対して、Bは「自分もAから甲土地を譲り受けて（549条）、所有権を持つ」と主張し、さらに「自分は登記を備えており、177条の『第三者』にあたるから、登記のないXは自分に対して所有権を主張できない」と反論することが考えられる。
　つまり、対抗要件を備えていないXは、「第三者」であるBに①の所有権を主張できないと反論するのである。

　では、Bは177条にいう「第三者」に当たるか。

　この点、「第三者」とは、登記の欠缺（＝登記がないこと）を主張する正当な利益を有する者をいう。
　そして、一般に、二重譲渡の一方の譲受人が他方の譲渡を知っていたとしても、所有権をもち、所有権が誰に帰属するかについて正当な利益を有する以上、原則として「第三者」として保護されるとされている。

　しかし、登記の欠缺を主張することが信義則（1条2項）に反するような背信的悪意者（＝他人に損害を与えることを知っていながらあえて権利取得や登記を行う者）については、正当な利益が否定され、「第三者」には該当しない。

　したがって、Xは、Bが背信的悪意者であるといえる場合に限り、Bは「第三者」にあたらず、Xは登記がなくともその所有権をBに対抗できる。
　そして、Bに対して登記手続を請求することができる。

(2)　詐害行為取消による対抗

　もっとも、仮にBが「第三者」であるとしても、Xは、AがBに土地を贈与した行為を「詐害行為（民法424条1項）」として取り消すことが考えられる。

　たしかに、Aにたいして、債務不履行に基づく損害賠償（415条）を行うことも考えられる。
　しかしXとしては、金銭的な補償を受けるよりもまず、自身の登記請求権を実現するために、Aが行った財産の処分（＝土地の贈与）をなかったことにして、再度Bからの登記を妨げる状態を解消したいという動機があるのである。

　詐害行為取消の要件は以下のとおりである。

　① 被保全債権が存在すること
　② 被保全債権の発生原因が詐害行為の前に成立していること（424条3項）
　③ 債務者が無資力であること
　④ 財産権を目的とする法律行為であること（424条2項）
　⑤ 債務者および受益者が「債権者を害することを知っていたこと」（424条1項本文）
　⑥ 詐害行為性（客観面・主観面を相関的に考慮すること（424条の2以下に特則あり））

　以下、順に検討する。

　ア　まず、Xの移転登記請求権が①「被保全債権」に該当するかが問題となる。
　　　この点、詐害行為取消の趣旨は責任財産の保全にあり、特定物の引渡し請求権のように金銭ではない債権は、原則として被保全債権にならない。
　　　しかし、それが履行不能により損害賠償請求権に転化した場合には金銭債権となるため、詐害行為取消権を行使できる。

　　　本件では、Xの請求に先立ってBが登記を得て、なおかつ「第三者」にも該当している。
　　　そのため、所有権者はBで確定し、AはもはやXへの登記義務を履行できない。
　　　よって、XはAに対して履行不能に基づく損害賠償請求（415条2項1号）が可能となる。
　　　したがって、Xは①被保全債権を有していることになる。

　　　②についても、XとAとの売買契約は、AB間の贈与行為より前に成立しており、発生原因が詐害行為前にあるため、この要件も満たされる。

　　　③については、Aが唯一の財産である甲土地を贈与したことから、他の債務の弁済に充てる資力を失ったといえ、「無資力」に該当する。

　　　④についても、AB間の贈与は「財産権を目的とする法律行為」にあたり、要件を満たす。

　　　⑤については、贈与が無償であること、唯一の財産であること、そしてXとの先行契約の存在などの事情から、Aに「債権者を害する意思」があったと評価できる。
　　　また、Bがこれらの事情を知っていたならば、「債権者を害することを知っていた」ことになる（424条1項本文）。

　　　⑥について、詐害行為該当性は、客観的事情と主観的事情を総合的に判断する必要があり、改正民法は424条の2以下に特則を設けている。
　　　　もっとも、本件は贈与（＝無償行為）であるため、原則条文の適用で足りる。

　したがって、上記の要件をすべて満たす場合、Xは、AB間の贈与を詐害行為として取り消すことができる。

　イ　次に、Xがこの詐害行為を取り消すことで、Bに対して直接「自分に登記を移せ」とまでは請求できるかが問題となる。

　　　この点については、詐害行為取消権の目的は「責任財産の保全」にあり、その観点からすれば、債務者の元に責任財産が回復されれば足りる。
　　　そこで、Xは「登記の抹消」は請求できても、直接「登記の移転」を請求することまではできないと解される。

　ウ　したがって、Bが詐害の事実について悪意である場合、Xは詐害行為取消権に基づいてAからBへの贈与を取り消し、Bに対して所有権移転登記の抹消を請求することができる（424条の6第1項前段）。