1　合併契約書の承認前における対応策

（1）
まず、Xは、合併に関する情報収集の一環として、B社に対して合併契約書の閲覧を請求することができる（会社法782条3項、1項1号）。

加えて、合併比率の合理性を判断するため、B社に対して会計帳簿（433条1項）および各種書類（442条3項）の閲覧請求を行うことも考えられる。

さらに、必要資料をもとに合併に反対する旨を事前に会社へ通知し、株主総会で反対票を投じることによって（785条2項1号イ）、公正な価格で株式の買い取りを求める手段も採ることができる（同項）。

2　合併契約書の承認後かつ合併効力発生前の対応策

（1）
次に、株主構成を見る限り、B社の議決権は実質的に親会社であるA社に握られているといえる。
この場合、Xは、承認決議に対し株主総会決議取消しの訴え（831条1項3号）を提起する選択肢を持つ。

（2）
ここで、A社が「特別の利害関係を有する者」に該当するかが問題となる。

この点、同号の趣旨は株主総会の公正性確保にあることから、
「特別の利害関係を有する者」とは議決の公正性に悪影響を与える関係性を指すと解される。
特に、株主の立場を離れ、他の株主の利益とは共存しない自己に有利な結果を導く場合が該当すると考えるべきである。

これに照らすと、A社は合併契約当事者であり、また株主としての立場も利用しているため、「特別の利害関係を有する者」に該当する。

（3）
加えて、本件では、過去10年間、1株あたりの純資産・配当額に大差がないにもかかわらず、B社株式3株に対しA社株式1株という交換比率が設定されている。
この比率は、B社株主に対して明らかに著しい不利益をもたらすものであり、著しく不当な決議であると認められる。

したがって、Xは承認決議取消しの訴えを提起することができる。

（4）
また、合併は有効な株主総会決議（783条1項）を前提とするところ、今回、それを欠いて法令違反があり、B社株主に不利な合併比率により、「株主が不利益を受ける恐れがある」以上、Xは本件合併の差止請求（784条の2第1項）をしうる。

（1）
合併が効力を発した後、Xは、合併の承認決議の取消訴訟をするのが不適当であるため、A社に対して合併比率の著しい不当性を理由に合併無効の訴え（828条1項）を提起することが考えられる。

（2）
しかし、単に合併比率が不公正であることが無効原因となるか、明文がないため問題となる。

この点、合併無効の趣旨は法的安定性の確保にある以上、無効原因は重大な瑕疵に限定するべきである。
また、合併に反対した株主には株式買取請求（785条1項）が認められている以上、通常、合併比率の不当自体は無効原因とはならないと解される。

（3）
ただし、株主総会の承認決議に取消事由が存在する場合や、合併が株主に著しい損害をもたらす場合には、株主総会決議（783条1項、309条2項1号）に重大な瑕疵があり、これを理由に合併無効とする余地がある。

そして、承認決議に取消事由がある場合、取消判決確定を待たずに無効を主張できなければ、訴訟期間の経過により救済が失われるおそれがある。
よって、承認決議に取消事由が認められる場合には、合併の無効原因として主張可能と考えるべきである。

もっとも、法秩序安定の要請から、株主総会決議の日から3か月以内（831条1項）に提訴する必要があると解する。

（4）
よって、Xは、承認決議から3か月以内であれば、合併無効の訴えを提起できる。

（5）
さらに、Xは、B社取締役に対し株主代表訴訟（847条1項、3項）を通じて、損害賠償責任（423条1項）を追及する手段を採ることができる。