第１　設問１

１乙が別訴として提起した丙に対する貸金返還請求訴訟は、前訴たる甲の丙に対する貸金返還請求訴訟と「事件」（142条）が同一であるとして、二重起訴禁止に抵触し、許されないのではないか。

（１）二重起訴禁止の趣旨は、被告の応訴の煩、訴訟不経済、既判力抵触のおそれにある。そこで、「事件」の同一性は、①当事者、②訴訟物の同一性によって判断する。

（２）まず、前訴である甲の丙に対する貸金返還請求訴訟の当事者は、甲と丙であり、乙の提起した貸金返還請求訴訟の当事者である乙と丙とは形式的には異なる。

しかし、債権者代位訴訟では代位債権者は法定訴訟担当であるから、判決効が債権者に及ぶ（115条１項2号）ため、既判力抵触のおそれがある以上二重起訴禁止の趣旨が及び、代位債権者と債権者は、当事者として同視することができる。本件でも、前訴は代位債権者甲による訴訟で、後訴は債権者乙による訴訟であるから、両者を同視することができる。そして、被告丙は両訴訟で共通している。そのため、当事者は同一である（①）。

訴訟物は前訴・後訴共に乙の丙に対する貸金返還請求権であるから、同一である（②）。

（３）したがって、乙が提起した貸金返還請求訴訟は、甲の丙に対する貸金返還請求訴訟と「事件」が同一である。

２よって、乙が別訴として提起した貸金返還請求訴訟は二重起訴禁止に抵触し、許されない。

３では、乙は被保全債権を争っていないが、甲の側に共同訴訟参加（52条）することにより、訴えが許されないか。

（１）代位債権者が被代理権利を行使した場合であっても、債権者たる乙は被代位権利について当事者適格を有する（民法423条の５）。

（２）また、先述したように乙には甲の前訴の判決効が及ぶため、「訴訟の目的が当事者の一方・・・について合一にのみ確定すべき場合」と言える。

【以下、場合分け】

３では、乙は被保全債権を争っていないが、甲と丙の訴訟に準独立当事者参加（47条後段）をすることはできないか。

（１）まず、代位債権者たる甲が被代位権利を行使した場合であっても、債権者たる乙は被代位権利について当事者適格を有する（民法423条の５）。

（２）また、独立当事者参加した場合には、併合審理され二重起訴禁止の趣旨が当てはまらないため、二重起訴禁止には抵触しない。

（３）では、原告甲の請求と参加人乙の請求が非両立であるか。

ア独立当事者参加において要求される請求の非両立性は、両請求が請求の趣旨レベルで非両立であることを意味する。

イ原告甲の請求も参加人乙の請求も、同一の貸金返還請求であり、金銭債権であるため、原告甲が給付を受けた場合には、乙は給付を受けることができない（民法423条の５）。そのため、甲・乙の両請求は請求の趣旨レベルで非両立である。

したがって、原告の請求と参加人の請求は非両立である。

【場合分け終了】

４よって、乙は甲の側に共同訴訟参加（準独立当事者参加）をすることができ、訴えは許される。

第２　設問２

１乙が別訴として提起した甲に対する売買代金請求訴訟は、前訴たる甲の乙に対する同一の売買代金債務不存在確認訴訟と「事件」（142条）が同一であるとして、二重起訴禁止に抵触し、許されないのではないか。

（１）先述した基準によって判断する。

（２）まず、前訴と後訴で被告と原告が乙・甲、甲・乙と入れ替わっているが、二重起訴禁止の趣旨からして、当事者は同一である（①）

次に、債務不存在確認訴訟の訴訟物は給付訴訟の反対形相であるから、給付訴訟と同一の訴訟物である。本件は、同一の売買代金債務について前訴不存在確認訴訟と後訴給付訴訟が提起されているから、訴訟物は同一である（②）

（３）したがって、乙が別訴として提起した甲に対する売買代金請求訴訟は、甲の乙に対する売買代金債務不存在確認訴訟と「事件」が同一である。

２よって、乙が別訴として提起した甲に対する売買代金請求訴訟は、二重起訴禁止に抵触し、許されない。

３乙が甲に対して反訴（146条）として売買代金請求訴訟をした場合には、併合審理され二重起訴禁止の趣旨が当てはまらないため、当事者及び訴訟物が同一であっても、二重起訴禁止に抵触しない。よって、反訴としての売買代金請求訴訟は許される。

第３　設問３

１乙が別訴として提起した乙の甲に対する売買代金請求訴訟は、甲の乙に対する前訴において提出した同一の売買代金債権による相殺の抗弁と「事件」（142条）が同一であるとして、二重起訴禁止に抵触し、許されないのではないか。

（１）相殺の抗弁は「事件」ではないため、訴訟と相殺の抗弁について、同条を直接適用することはできない。しかし、二重起訴禁止の趣旨は先述したものであるところ、相殺の抗弁も予備的抗弁であるとはいえ、審理される可能性があり、既判力（115条２項）ある判断がなされる以上、上記趣旨が当てはまる可能性がある。また、先行して相殺がなされ、同一債権が後訴において訴求されている場合には、相殺の担保的機能への期待を保護する必要はない。そこで、訴訟と相殺の抗弁について同条を類推適用すべきである。

（２）乙が別訴として提起した乙の甲に対する売買代金請求訴訟は、甲の乙に対する前訴において提出した同一の売買代金債権による相殺の抗弁と「事件」（142条類推適用）が同一である。

２よって、乙が別訴として提起した乙の甲に対する売買代金請求訴訟は、二重起訴禁止に抵触し、許されない。

訴えの提起

二重起訴禁止