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(1)　Cの請求について

Cとしては、重傷を負っていたBをタクシーで病院へ搬送するという、緊急かつ重要な行為をした以上、その際に自分が負担した費用（タクシー代やクリーニング代）について、法的に補償してもらいたいと考えるのが自然である。
とくに、搬送にかかった費用が高額になる場合、それを全て自分で負担するのは不公平であると感じるであろう。

このような費用請求が法的に可能かどうかについては、Cの行為が「事務管理」（民法697条。義務なく他人のために事務を行ったときに生じる法律関係）として評価されるかが問題となる。

ア　本件では、Bが明示的にCに対し搬送を頼んでいなかったため、CにはBを搬送する法的な義務はなかった。
にもかかわらず、Cは自分の意思でBのために搬送という事務を行っているため、これは「事務管理」に該当する可能性がある。

事務管理が成立するためには、次の4つの要件を満たす必要がある。
① 法律上の義務がないこと（契約や法律によって行為が義務づけられていないこと）
② 他人のために行った意思があること（自分のためでも、他人のためという意思があれば足りる）
③ 他人の事務を実際に処理したこと（たとえば、搬送など）
④ 本人（この場合はB）の意思や利益に明らかに反していないこと（民法698条）

これらの要件を本件にあてはめると、Cは自発的に搬送を行っており、Bに反対の意思も見られないため、すべての要件を満たす。
したがって、Cの行為は事務管理に該当する。

イ　事務管理が成立すると、CはBの相続人であるEおよびG（民法890条、887条1項）に対して、「有益な費用」（民法702条1項）として支出した金銭の返還を請求できる（民法896条本文）。

ここでいう**「有益な費用」**とは、本人の財産にとって利益となる支出を指す。

まず、タクシー代については、Bを速やかに病院に搬送するためのものであり、Bの身体や生命にとって明らかに有益な費用であるため、当然に返還請求の対象となる。

ウ　次に、衣服のクリーニング費用についても請求が可能かが問題となる。

タクシー代と違い、衣服が汚れたことはBを治療を早く受けさせることなどBの利益に直接関係することではなく、損害賠償や必要費としての性格が強い。

しかし、民法702条2項では、損害賠償に関する規定（民法650条3項）は準用されていないため、原則として「損害」そのものの賠償請求はできないように見える。

この点については、社会的な相互扶助の理念（たとえば災害時の応急対応など）を踏まえ、「有益な費用」は広く解釈され、管理に伴って通常予見される損害（たとえば衣服の汚損など）も含むと解するべきである。

本件でも、重傷のBを運ぶにあたって衣服が汚れることは通常予測できることであり、これは搬送という管理行為に付随して当然に生じる支出である。
したがって、クリーニング代も有益な費用として返還請求の対象となる。

エ　以上より、Cは、Bの相続人であるEおよびGに対して、タクシー代およびクリーニング代の返還を請求することができる。

(2)　Dの請求について

Dは、Cの依頼によりBを治療した医師であり、医療行為に対する正当な報酬を受け取りたいと考えるのが自然である。
しかし、本件ではDが直接Bと契約をしたわけではないため、Dが誰に対して治療費を請求できるのかが問題となる。

ア　本件では、Cが自分の判断でDに治療を依頼しており、その際に「Bのために」治療を頼んでいる。
これは、Cが事務管理者として行った行為と評価できる。

しかし、事務管理はあくまでCとBとの間の内部的な関係にすぎず、Cに対して本人であるBの「代理権」（民法99条以下）が与えられたわけではない。

つまり、CはBの代理人ではないので、Cが勝手にBの名で契約をしても、その契約の効果は原則としてBには及ばない（無権代理。民法117条1項）。

したがって、DがB（またはその相続人E・G）に対して治療費を直接請求するためには、内縁配偶者であるFがこの無権代理行為を「追認」（民法113条1項）する必要がある。
追認がない限り、DはBに対して請求することはできない。

イ　一方、Dは無権代理人Cの依頼を受けて治療をしたのであり、無権代理人であるCに対して、無権代理人の責任として治療費の支払いを求めることができる（民法117条1項）。

ウ　以上より、Dは、
① Fが追認した場合：Bの相続人であるE・Gに対して治療費を請求できる。
② Fが追認しない場合：Cに対して治療費を請求することができる。