1　設問前段について

（1）
まず、Aは、P社がQ社から著しく低い価格で製品を取得したことについて、「利益供与」（会社法120条1項）に該当すると主張し、Q社に対して、P社が得た利益の返還（同条3項）を求める訴訟提起を請求（847条1項）することが考えられる。
さらに、請求後60日以内に会社が訴えを提起しない場合や、損害が生じるおそれがあるときには、A自身が株主代表訴訟を提起（同条3項・5項）できる。

ア
この点、Q社は自社株主であるP社に対し、製品を著しく低い価格で譲渡しているため、
「当該株式会社の受けた利益が財産上の利益に比べて著しく少ない」（120条2項後段）場合に該当し、利益供与があったと推定される。
この推定を覆す事情も特に認められない。

イ
よって、Aは上記の訴訟請求や代表訴訟によって保護を図ることができる。

（2）
さらに、上記売買が「利益供与」に該当することから、
Aは、Q社に対し、取締役に対する金銭支払請求（120条4項本文）を求める訴訟を請求し、または株主代表訴訟を通じてこれを自ら追及することが可能である。

（3）
加えて、Aは、Q社に対し、取締役の善管注意義務違反に基づく損害賠償請求（423条1項）を求める訴訟提起請求を行い、代表訴訟を提起することも考えられる。

ア
取締役は、会社との間で善管注意義務（330条・民法644条）を負っている。
それにもかかわらず、Q社取締役は、P社に不当に低い価格で製品を売却し、利益供与という違法行為を行なって、Q社に損害を与えている以上、善管注意義務違反が認められ、「任務懈怠」にあたる。
また、取締役に過失がない事情も見当たらない。

イ
したがって、Aはこの損害賠償請求によっても保護されることになる。

（4）
さらに、Aは、Q社取締役個人に対して、会社法429条1項に基づき、直接損害賠償請求を行うことも考えられる。

ア
429条1項の責任は、社会・経済上会社の持つ影響が重大であり、その経営が取締役の職務執行に依存していることから、取締役の行為により損害を受ける第三者を保護するために設けられた特別責任である。
そのため、要件は広く解釈し、

「悪意又は重大な過失」は任務懈怠に関して認められればよく、
「損害」は直接損害・間接損害を問わず含まれ、
「第三者」には株主も含まれる

と解する。

イ
本件では、Q社取締役はP社との不当な取引を行っており、任務懈怠が認められる。
加えて、取締役には利益供与に関する「悪意」が認められ、株主であるAは、Q社の損害による株価下落という間接損害を受けたといえる。

ウ
よって、Aは429条1項に基づき、取締役個人に対して損害賠償請求をすることができる。

（5）
さらに、Aは、Q社の親会社であるP社に対しても、429条1項を類推適用して損害賠償を請求できる可能性がある。

ア
P社はQ社の取締役等ではないため、同項を直接適用することはできない。
しかし、第三者を広く保護しようとする429条1項の趣旨を踏まえると、適法な選任を経ていなくとも、実質的に取締役と同様に業務執行をしている者に対しては、同項を類推適用できると考えられる。
特に、子会社取締役が親会社の指揮命令に実質的に拘束されている場合には、親会社に429条1項の責任を負わせることができる。

イ
本件では、P社がQ社に対して実質的に指示を行い、取引を進めさせていることから、P社には429条1項の類推適用が可能である。

ウ
したがって、AはP社に対しても損害賠償請求をすることで保護を受けることができる。

2　設問後段について

（1）
まず、本件売買が利益相反取引に該当する場合、損害が生じている以上、取締役会の承認決議の有無にかかわらず、423条3項各号の取締役には任務懈怠の推定が働く。
この推定を覆す事情も認められない以上、取締役には損害賠償責任（423条1項）が認められる。

よって、Aは、これに基づく訴訟提起請求や、株主代表訴訟を提起することで自身の利益を守ることができる。

（2）
次に、取締役会の承認がない以上、Q社はP社に対して、売買契約の無効を主張し、原状回復請求（民法121条の2第1項）を行うことも可能である。

ア
この点、直接取引の相手方に対しては、取引の安全を考慮する必要がない以上、一般原則にのっとり、会社は原則として無条件に無効主張ができる。
ただし、間接取引の相手方や転得者に対しては、取引の安全を考慮し、承認欠如について悪意でなければ無効を主張できないと解する。

イ
本件では、P社はQ社との直接の取引当事者であるため、Q社は無効を無条件に主張できる。

ウ
したがって、Q社が売買無効および原状回復請求を行うことで、最終的にAの利益も守られることになる。

法律学習プラットフォーム

商法の過去問

組織再編